岩崎 邦彦
(経営情報学部 教授)
(経営情報学部 教授)
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Webエッセイ
はじめに
新型コロナウィルスは、世界経済に極めて大きな打撃を与えている。とりわけ、深刻な影響を受けているのが、観光分野である。観光の前提は、“人が動くこと”だ。「ステイホーム」では、観光は成り立たない。
新型コロナウィルスは、いつかは収束する。だが、観光産業は、おそらく前と同じような状況には戻らないだろう。なぜなら、この危機は、社会の在り方を変え、経済構造を変化させ、観光客の意識も変えてしまう。この産業を取り巻く環境そのものが大きく変容するからだ。
コロナ後、観光産業が再び輝くためには、これまでとは発想を変える必要があるかもしれない。未だこの危機の結末は見えない状況ではあるが、本稿では、コロナ後の我が国の観光が進むべき道を考えてみたい。
新型コロナウィルスは、いつかは収束する。だが、観光産業は、おそらく前と同じような状況には戻らないだろう。なぜなら、この危機は、社会の在り方を変え、経済構造を変化させ、観光客の意識も変えてしまう。この産業を取り巻く環境そのものが大きく変容するからだ。
コロナ後、観光産業が再び輝くためには、これまでとは発想を変える必要があるかもしれない。未だこの危機の結末は見えない状況ではあるが、本稿では、コロナ後の我が国の観光が進むべき道を考えてみたい。
危機直前の観光の状況
まず、コロナ危機の“直前”の我が国の観光の状況を振り返ってみよう。一言でいうと、「数の追求」と「インバウンド観光の重視」だ。
インバウンド(訪日外国人)旅行者数は、この10年間に4倍と極めて大きな伸びをみせていた(図1)。数の追求という面では、成果は確実にでていた。政府のインバウンド旅行者数の目標は、今や幻かもしれないが、2020年には4000万人、30年には6000万人だ。
全国各地では、観光客誘客キャンペーン、インバウンド団体観光の誘致、大型クルーズ船の誘致などが盛んに進められていた。
図1:インバウンド旅行者数の推移
インバウンド(訪日外国人)旅行者数は、この10年間に4倍と極めて大きな伸びをみせていた(図1)。数の追求という面では、成果は確実にでていた。政府のインバウンド旅行者数の目標は、今や幻かもしれないが、2020年には4000万人、30年には6000万人だ。
全国各地では、観光客誘客キャンペーン、インバウンド団体観光の誘致、大型クルーズ船の誘致などが盛んに進められていた。
図1:インバウンド旅行者数の推移
「数の観光」の限界
インバウンドの団体観光が増え、クルーズ船が来訪すれば、観光客数は伸びていく。だがこの時、すでに今に至る問題が始まっていたのかもしれない。
第一は、「数は稼げても、地元が稼げない」という問題だ。たとえば、大型クルーズ船が誘致できれば、インバウンド客数は格段に増え、「数的」には成果はあがる。だが、クルーズ客は、船中で泊まるため、地元に落ちる宿泊費はほぼゼロだ。船中で食事をするため、地元でほとんど食事をしない。買物場所は、免税店や全国チェーン店が中心である。滞在時間が限られるため一気にやってきて一気に去っていく。
第二は、「オーバーツーリズム」の問題である。過剰な観光客がもたらす弊害が、一部の地域で現実化し、観光客数の増加が地域の豊かさや、地域の人々の幸福につながらないという状況が生じていた。
第三の問題は「日本人の観光離れ」だ。これは「京都も札幌も、観光地と呼ばれるところは外国人が多すぎて、もう行きたいとは思えなくなってしまいました」「行きたくない観光地は京都。外国人だらけで宿泊代は暴騰し、予約が取れない」といった言葉に象徴される。事実、インバウンド数が急増する一方で、日本人については、海外旅行も国内旅行も伸びていない。
第一は、「数は稼げても、地元が稼げない」という問題だ。たとえば、大型クルーズ船が誘致できれば、インバウンド客数は格段に増え、「数的」には成果はあがる。だが、クルーズ客は、船中で泊まるため、地元に落ちる宿泊費はほぼゼロだ。船中で食事をするため、地元でほとんど食事をしない。買物場所は、免税店や全国チェーン店が中心である。滞在時間が限られるため一気にやってきて一気に去っていく。
第二は、「オーバーツーリズム」の問題である。過剰な観光客がもたらす弊害が、一部の地域で現実化し、観光客数の増加が地域の豊かさや、地域の人々の幸福につながらないという状況が生じていた。
第三の問題は「日本人の観光離れ」だ。これは「京都も札幌も、観光地と呼ばれるところは外国人が多すぎて、もう行きたいとは思えなくなってしまいました」「行きたくない観光地は京都。外国人だらけで宿泊代は暴騰し、予約が取れない」といった言葉に象徴される。事実、インバウンド数が急増する一方で、日本人については、海外旅行も国内旅行も伸びていない。
「密」を嫌う観光客の増加
コロナ危機は、「数を追求する観光」への警鐘かもしれない。今回の危機を経験し、人々の心理は変化するはずだ。たとえば、“密”を嫌う観光客の増加である。
数を追求すればするほど、「密集」「密着」という“密”につながる可能性は高まる。屋内の観光であれば、これに「密閉」も加わり、「3密」になることもあるだろう。治療薬やワクチンができて問題が終息するまでは、「数の観光」とは距離を置く人々が多いはずだ。
「コロナが収束したら、観光客誘致を進め、観光客数をV字回復させよう」。こういった話を観光関係者から聞くことがあるが、「数の減少を“数”で補う」という発想は危険だろう。
数を追求すればするほど、「密集」「密着」という“密”につながる可能性は高まる。屋内の観光であれば、これに「密閉」も加わり、「3密」になることもあるだろう。治療薬やワクチンができて問題が終息するまでは、「数の観光」とは距離を置く人々が多いはずだ。
「コロナが収束したら、観光客誘致を進め、観光客数をV字回復させよう」。こういった話を観光関係者から聞くことがあるが、「数の減少を“数”で補う」という発想は危険だろう。
「数の観光」は持続的でない
そもそも、観光における数の追求は、遅かれ早かれ限界が来る。モノと違って、地域は増やすことはできないし、大きくすることもできないからだ。観光客が増えたからといって、京都を2つ作ることも、面積を2倍にすることもできない。数の観光は、持続的ではない。
コロナ後の観光は、発想を変える必要があるだろう。
大切なのは、「数の減少を“数で補う”のでなく、数の減少を“質の向上に変える”」ことであり、「“遠く”を見るのでなく、“足元”を大切にする」ことだ。
具体的には、「数の観光」から「質の観光」へのシフト、そして、「インバウンド重視」から「国内客?地元客重視」へのシフトである。
コロナ後の観光は、発想を変える必要があるだろう。
大切なのは、「数の減少を“数で補う”のでなく、数の減少を“質の向上に変える”」ことであり、「“遠く”を見るのでなく、“足元”を大切にする」ことだ。
具体的には、「数の観光」から「質の観光」へのシフト、そして、「インバウンド重視」から「国内客?地元客重視」へのシフトである。