薬学部ゲノム病態解析講座の寺尾知可史特任教授(理化学研究所センターゲノム解析応用研究チームリーダー、静岡県立総合病院免疫研究部長)、石川優樹研究員、京都大学大学院医学研究科の夜久愛大学院生らの共同研究グループは、関節リウマチ患者の血中に見られる自己抗体[1]の一つであるIgG型リウマチ因子(IgG-RF)[2]の有無が、HLA-DRB1遺伝子[3]上のシェアドエピトープ(SE)[4]のアレル[5]の特定のパターンと関連することを発見しました。
本研究成果は、自己免疫疾患[1]の代表である関節リウマチの患者の病態進展予測や、患者ごとの病型に応じた治療戦略の開発に向けた研究に貢献すると期待できます。
今回、共同研究グループは、京都大学医学部附属病院に通院する関節リウマチ患者743名の血液サンプル中の自己抗体の有無と関節リウマチの強いリスクであるSEアレル[5]のパターンの関連を解析しました。その結果、IgG-RFの有無がSEアレルの特徴的なパターンと関連していることが分かりました。特に、IgG-RF陰性の患者は、これまで報告されている典型的なSEアレルパターンを示す患者群に集積していました。そのため、通常測定されているIgM型リウマチ因子(IgM-RF)[2]や抗環状シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)[6]に加えて、IgG-RFを測定すれば、関節リウマチ患者の臨床的プロファイルを予測し、治療戦略に反映できると考えられます。
本研究は、科学雑誌『RHEUMATOLOGY(OXFORD)』オンライン版(11月15日付)に掲載されました。
本研究成果は、自己免疫疾患[1]の代表である関節リウマチの患者の病態進展予測や、患者ごとの病型に応じた治療戦略の開発に向けた研究に貢献すると期待できます。
今回、共同研究グループは、京都大学医学部附属病院に通院する関節リウマチ患者743名の血液サンプル中の自己抗体の有無と関節リウマチの強いリスクであるSEアレル[5]のパターンの関連を解析しました。その結果、IgG-RFの有無がSEアレルの特徴的なパターンと関連していることが分かりました。特に、IgG-RF陰性の患者は、これまで報告されている典型的なSEアレルパターンを示す患者群に集積していました。そのため、通常測定されているIgM型リウマチ因子(IgM-RF)[2]や抗環状シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)[6]に加えて、IgG-RFを測定すれば、関節リウマチ患者の臨床的プロファイルを予測し、治療戦略に反映できると考えられます。
本研究は、科学雑誌『RHEUMATOLOGY(OXFORD)』オンライン版(11月15日付)に掲載されました。
関節リウマチ患者における自己抗体とSEアレルパターンの関連
背景
関節リウマチの患者の血液中には、関節リウマチ特有の自己抗体と呼ばれるタンパク質がいくつか検出され、その中でも特にIgM型リウマチ因子(IgM-RF)と抗環状シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)は、関節リウマチの診断における特異性の高さから、日常診療においてもよく測定されます。一方、これらの自己抗体は全ての関節リウマチ患者の血中で検出されるわけではなく、自己抗体の有無によって重症度や薬剤反応性などの臨床経過が異なることから、関節リウマチの中にさまざまな亜型(サブタイプ)が存在することが示唆されてきました。つまり、自己抗体の有無は、関節リウマチのサブタイプを区別するマーカーとして有用である可能性があります。
自己抗体の有無や臨床経過の違いを説明する一つの因子として、遺伝的多様性が挙げられ、実際に関節リウマチ患者における遺伝的差異による臨床像の違いがこれまで報告されてきました。その最たる例として、HLA-DRB1遺伝子上に存在するシェアドエピトープ(SE)のアレル(対立遺伝子)を持つ関節リウマチ患者においては、ACPAやIgM-RFが陽性であるばかりでなく高力価[7]であることが知られており、疾患活動性が高く将来の関節破壊のリスクが高いことが分かっています。
これらの研究は主にACPAやIgM-RFに着目したものであり、IgG型リウマチ因子(IgG-RF)をはじめとした他の自己抗体については、遺伝的な背景と臨床像との関連や臨床的意義はこれまでよく分かっていませんでした。そこで本研究では、ACPAやIgM-RF以外の関節リウマチ関連の自己抗体を含めた自己抗体プロファイルを行い,SEアレルパターンとの関連を調べる中で、特に特徴的であったIgG-RFに着目して臨床的意義を模索しました。
自己抗体の有無や臨床経過の違いを説明する一つの因子として、遺伝的多様性が挙げられ、実際に関節リウマチ患者における遺伝的差異による臨床像の違いがこれまで報告されてきました。その最たる例として、HLA-DRB1遺伝子上に存在するシェアドエピトープ(SE)のアレル(対立遺伝子)を持つ関節リウマチ患者においては、ACPAやIgM-RFが陽性であるばかりでなく高力価[7]であることが知られており、疾患活動性が高く将来の関節破壊のリスクが高いことが分かっています。
これらの研究は主にACPAやIgM-RFに着目したものであり、IgG型リウマチ因子(IgG-RF)をはじめとした他の自己抗体については、遺伝的な背景と臨床像との関連や臨床的意義はこれまでよく分かっていませんでした。そこで本研究では、ACPAやIgM-RF以外の関節リウマチ関連の自己抗体を含めた自己抗体プロファイルを行い,SEアレルパターンとの関連を調べる中で、特に特徴的であったIgG-RFに着目して臨床的意義を模索しました。
研究手法と成果
共同研究グループは、京都大学医学部附属病院免疫?膠原病内科に通院する関節リウマチ患者のうち同意の得られた743名について、関節リウマチに関連する自己抗体の測定結果を電子カルテより抽出しました。そして、患者から提供された血液検体中の細胞由来のDNAを用いて、HLA-DRB1遺伝子上のSEアレルパターンを解析しました。これらの情報は、個人が同定できないように全て匿名化されています。得られた情報を基に、自己抗体の有無とHLA-DRB1遺伝子のSEアレルパターンとの間に関連があるかどうかを、ロジスティック回帰分析モデル[8]を用いて検証しました。
その結果、IgM-RFやACPAについてはこれまで知られていたのと同様に、DRB1*04:05(日本人を含むアジア人で最も頻度の高いSE)を持っている患者において有意に陽性率が高かったのに対して、IgG-RFについてはDRB1*04:05以外のSEを持っている患者で陰性率が高い傾向にありました(図1上段)。本研究で自己抗体との関連が認められたSEの中では、特に欧米人で頻度の高いSEであるDRB1*04:01がIgG-RF陰性患者で多い傾向にあり、この傾向はDRB1*04:05の影響を調節しても認められたことから、DRB1*04:01がDRB1*04:05とは独立してIgG-RF陰性の関節リウマチに関連していることが分かりました。
また、関節リウマチ患者では複数の自己抗体が血中に見られますが、IgM-RF陽性患者においては、IgG-RFとDRB1*04:01との関連は、ACPAの有無とは無関係であることも分かりました(図1下段)。
その結果、IgM-RFやACPAについてはこれまで知られていたのと同様に、DRB1*04:05(日本人を含むアジア人で最も頻度の高いSE)を持っている患者において有意に陽性率が高かったのに対して、IgG-RFについてはDRB1*04:05以外のSEを持っている患者で陰性率が高い傾向にありました(図1上段)。本研究で自己抗体との関連が認められたSEの中では、特に欧米人で頻度の高いSEであるDRB1*04:01がIgG-RF陰性患者で多い傾向にあり、この傾向はDRB1*04:05の影響を調節しても認められたことから、DRB1*04:01がDRB1*04:05とは独立してIgG-RF陰性の関節リウマチに関連していることが分かりました。
また、関節リウマチ患者では複数の自己抗体が血中に見られますが、IgM-RF陽性患者においては、IgG-RFとDRB1*04:01との関連は、ACPAの有無とは無関係であることも分かりました(図1下段)。
(上段)IgG-RF、IgM-RF、ACPAの有無とSE全体(A)、D