理化学研究所
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変形性関節症の遺伝子座を962カ所発見 -大規模国際ゲノム解析で高齢化社会の課題に迫る-
概要
理化学研究所(理研)生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームディレクター(静岡県立総合病院臨床研究部免疫研究部長、澳门金沙官网_澳门金沙赌城¥博彩平台薬学部ゲノム病態解析分野特任教授)、池川志郎客員主管研究員、島根大学医学部整形外科学講座の内尾祐司教授、順天堂大学大学院医学研究科整形外科?運動器医学の石島旨章主任教授らの共同研究グループは、変形性関節症のゲノム解析のための国際コンソーシアム(GOコンソーシアム[1])に参画し、アジア人(主に日本人)の解析を行い、変形性関節症の原因となる可能性が高い700の遺伝子の特定に貢献しました。
本研究成果は、今後の変形性関節症の原因?病態の解明、治療法開発などの研究の基盤になると期待されます。
今回、共同研究グループが参画したGOコンソーシアムは、489,975人の変形性関節症患者と1,472,094人の対照のデータを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)[2]の国際メタ解析[3]を実施し、新しい513カ所を含む計962カ所の疾患感受性多型[4]を同定しました。またそこから286カ所の疾患に関わる疾患感受性領域(遺伝子座)[5]を同定しました。そのうち176カ所は今回初めて発見されたものでした。さらに、主要な関節組織のトランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイル[6]などのデータを統合解析しました。
本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(4月9日付)に掲載されました。
本研究成果は、今後の変形性関節症の原因?病態の解明、治療法開発などの研究の基盤になると期待されます。
今回、共同研究グループが参画したGOコンソーシアムは、489,975人の変形性関節症患者と1,472,094人の対照のデータを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)[2]の国際メタ解析[3]を実施し、新しい513カ所を含む計962カ所の疾患感受性多型[4]を同定しました。またそこから286カ所の疾患に関わる疾患感受性領域(遺伝子座)[5]を同定しました。そのうち176カ所は今回初めて発見されたものでした。さらに、主要な関節組織のトランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイル[6]などのデータを統合解析しました。
本研究は、科学雑誌『Nature』オンライン版(4月9日付)に掲載されました。
背景
変形性関節症は、膝関節、股関節、脊椎をはじめ、全身のあらゆる関節を侵し、痛みなどのために患者の生活の質(QOL: Quality of Life)、健康寿命、生命予後(生存の見通し)に大きな影響を与えるため、要介護となる最大の原因です。病理学上の特徴は関節軟骨の変性ですが、その発症の詳細は不明です。遺伝要因と環境要因の総合的な作用により発症する多因子遺伝病であると考えられています注1)。
また、変形性関節症は、骨?関節疾患の中で最も頻度が高く、患者数は世界的に急速に増加しています。世界で3億人以上注2)、日本でも1,000万人が罹患(りかん)しています。厚生労働省の平成26年(2014年)患者調査(傷病分類編)によると、1987年から27年の間に患者数は約3倍になっており、整形外科疾患の中で最も患者数が増加しています注3)。患者数は社会の高齢化とともにさらに増加して、2050年までには世界で10億人に達すると推定されています。
このように変形性関節症の患者数の増加による社会的?経済的負担は甚大ですが、有効な治療薬はまだ見つかっていません。
理研では、遺伝子多型研究センターが創設された2000年以来、関連解析を中心とするゲノム解析による変形性関節症の病因?病態の解明に取り組んできました。そして、初めて膝の変形性関節症の大規模関連解析に成功するなど注4、5)、これまで、数々の成果を上げてきました。2018年からは、変形性関節症のゲノム解析のためのGOコンソーシアムにアジアから初めて参画し、初の変形性関節症のGWASの国際メタ解析研究の成功に大きく貢献しています注6)。
また、変形性関節症は、骨?関節疾患の中で最も頻度が高く、患者数は世界的に急速に増加しています。世界で3億人以上注2)、日本でも1,000万人が罹患(りかん)しています。厚生労働省の平成26年(2014年)患者調査(傷病分類編)によると、1987年から27年の間に患者数は約3倍になっており、整形外科疾患の中で最も患者数が増加しています注3)。患者数は社会の高齢化とともにさらに増加して、2050年までには世界で10億人に達すると推定されています。
このように変形性関節症の患者数の増加による社会的?経済的負担は甚大ですが、有効な治療薬はまだ見つかっていません。
理研では、遺伝子多型研究センターが創設された2000年以来、関連解析を中心とするゲノム解析による変形性関節症の病因?病態の解明に取り組んできました。そして、初めて膝の変形性関節症の大規模関連解析に成功するなど注4、5)、これまで、数々の成果を上げてきました。2018年からは、変形性関節症のゲノム解析のためのGOコンソーシアムにアジアから初めて参画し、初の変形性関節症のGWASの国際メタ解析研究の成功に大きく貢献しています注6)。
注1)池川志郎.整形外科領域のゲノム医療-現状と今後今後の課題.日本整形外科学会雑誌2020;94(1): 27-31.
注2)GBD 2017 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet. 2018 Nov 10;392(10159):1789-1858.
注3)厚生労働省大臣官房統計情報部「平成26年患者調査(傷病分類編)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h26syobyo.pdf p.60【外部PDF】
注4)2005年5月2日プレスリリース「椎間板ヘルニアの原因遺伝子を世界で初めて発見」
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2005/20050502_1/20050502_1.pdf【外部PDF】
注5)2008年7月12日プレスリリース「膝の変形性関節症の原因遺伝子『DVWA』を同定」
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2008/20080712_2/20080712_2.pdf【外部PDF】
注6)2021年8月30日プレスリリース「変形性関節症の新しい遺伝子座位を56カ所発見」
https://www.riken.jp/press/2021/20210830_2/index.html【外部リンク】
注2)GBD 2017 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 354 diseases and injuries for 195 countries and territories, 1990-2017: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2017. Lancet. 2018 Nov 10;392(10159):1789-1858.
注3)厚生労働省大臣官房統計情報部「平成26年患者調査(傷病分類編)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/dl/h26syobyo.pdf p.60【外部PDF】
注4)2005年5月2日プレスリリース「椎間板ヘルニアの原因遺伝子を世界で初めて発見」
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2005/20050502_1/20050502_1.pdf【外部PDF】
注5)2008年7月12日プレスリリース「膝の変形性関節症の原因遺伝子『DVWA』を同定」
https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/press/2008/20080712_2/20080712_2.pdf【外部PDF】
注6)2021年8月30日プレスリリース「変形性関節症の新しい遺伝子座位を56カ所発見」
https://www.riken.jp/press/2021/20210830_2/index.html【外部リンク】
研究手法と成果
GOコンソーシアムでは、過去に各国にて独立で収集された変形性関節症のGWASデータを収集しています。今回、87のコホート[7]における1,962,069人(変形性関節症患者:489,975人、非患者:1,472,094人)のGWASデータを吟味、統合し、メタ解析を行いました。その結果、962カ所の独立した変形性関節症に相関する疾患感受性多型を同定しました(図1)。そのうち513カ所はこれまで見つかっていなかった新しい遺伝子多型[8]でした。
図1 変形性関節症の国際メタ解析の結果
個々の点は、一つの一塩基多型(SNP)の相関値を示す。横軸は各SNPの染色体上の位置、縦軸は対数変換したその相関値。赤色の破線はゲノムワイド有意水準(P<1.3×10-8)を示し、それよりも上のSNPが変形性関節症と有意な相関がある。
同定された962カ所の変形性関節症に相関する遺伝子多型は、計286カ所のゲノム上の領域にあり、このうち176カ所は今回初めて発見されました。このゲノム領域内にある、変形性関節症の原因となる可能性が高い遺伝子(エフェクター遺伝子)を特定するために、骨?軟骨など主要な関節組織のトランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイルなど互いに独立した24種類の遺伝学的データを統合し、変形性関節症に相関する遺伝子多型が指し示す286の遺伝子座内に存在する8,785の遺伝子のそれぞれにスコア[9]を付けました。この結果、スコアが3点以上の700のユニークなエフェクター遺伝子が同定されました。また、これらのエフェクター遺伝子が豊富に存在する八つの変形性関節症の分子経路[10]を特定し、さらにこれら八つの分子経路が相関していることが分かりました(表1)。
表1 八つの変形性関節症に関連する分子経路とそれに含まれる候補原因遺伝子数
さらに、創薬ターゲット(標的)として、69のエフェクター遺伝子のタンパク質をターゲットとする473個の承認済み薬剤を特定しました。これら69の創薬ターゲット遺伝子(別名”druggable(薬物標的可能)遺伝子”)のうち半数以上の37個の創薬ターゲット遺伝子が、これら八つの分子経路に含まれていました。
以上、今回の研究では、前回の研究注6)の2.76倍の患者サンプルを集めて、大幅に規模を拡大したGWASデータと、トランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイルなどさまざまなデータを統合解析した結果、多くの候補原因遺伝子とそれに関連する分子機構、ならびに創薬ターゲット遺伝子を同定することができました。
以上、今回の研究では、前回の研究注6)の2.76倍の患者サンプルを集めて、大幅に規模を拡大したGWASデータと、トランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイルなどさまざまなデータを統合解析した結果、多くの候補原因遺伝子とそれに関連する分子機構、ならびに創薬ターゲット遺伝子を同定することができました。
今後の期待
今回の成果は、人類の大きな課題となっている変形性関節症の原因、病態の解明、治療法の開発、予防に関する医学研究の基盤になると考えられます。現在のサンプルは87%がヨーロッパ人のものなので、今後、アジア人などのサンプルを収集して解析することで、さらに、新たな知見が得られることが期待されます。
論文情報
<タイトル>
Translational genomics of osteoarthritis in 1,962,069 individuals
<著者名>
Konstantinos Hatzikotoulas, et al.
<雑誌>
Nature
<DOI>10.1038/s41586-025-08771-z【外部リンク】
Translational genomics of osteoarthritis in 1,962,069 individuals
<著者名>
Konstantinos Hatzikotoulas, et al.
<雑誌>
Nature
<DOI>10.1038/s41586-025-08771-z【外部リンク】
補足説明
[1] GOコンソーシアム
変形性関節症のゲノム解析のための国際コンソーシアム。ドイツのEleftheria Zeggini博士を中心に、2017年に発足した。主に北?西ヨーロッパの研究機関の研究者で構成されている。アジアからは理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームが2018年に初めて参加した。GOはGenetics of Osteoarthritisの略。
[2] ゲノムワイド関連解析(GWAS)
疾患の感受性遺伝子を見つける方法の一つ。ヒトのゲノム全体を網羅する遺伝子多型([8]参照)を用いて、疾患を持つ群と疾患を持たない群とで遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に検定する方法。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。GWASはGenome-Wide Association Studyの略。
[3] メタ解析
独立して行われた複数の研究の統計解析結果を合算する統計学的手法。
[4] 疾患感受性多型
持っているとその疾患の感受性(発生する確率)を上昇させるゲノムDNAの塩基配列。
[5] 疾患感受性領域(遺伝子座)
疾患の発症に関連している染色体上の領域のこと。
[6] トランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイル
トランスクリプトームは、一つのゲノム、または特定の細胞?組織?器官の中で生産される転写産物(転写によって合成されたRNA)全体を指す。プロテオームは、細胞など、生物のある状態において存在するタンパク質の全てのこと。細胞内の全DNAの塩基配列として記録された遺伝情報の総体を指す「ゲノム」に対し、DNAやヒストンの化学修飾などによって細胞の個性を記憶する情報の総体を「エピゲノム」と呼び、そのプロファイルをエピゲノムプロファイルという。
[7] コホート
研究の対象とする、患者または健常者などの集団のこと。
[8] 遺伝子多型
ヒトゲノムは30億塩基対のDNAから成るが、個々人を比較するとそのうちの0.1%の塩基配列に違いがある。これを遺伝子多型という。遺伝子多型のうち一つの塩基が、ほかの塩基に変わるものを一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)と呼ぶ。
[9] スコア
ある遺伝子と変形性関節症の間で何かしらの関連があるかを、遺伝学的データ(実験結果より統計的に関係ありと思われる、あるいは既知の結果より統計的に関係ありと思われるデータ)に基づき24項目で検討。今回、8,785の遺伝子において各項目に関連ありとなった場合には1点を付与し、合計24点満点で評価した。これまでの研究で変形性関節症について「エフェクター遺伝子」とされている遺伝子についても同様に検討し、エフェクター遺伝子として考慮して良いものとする閾値(しきいち)を3点に設定した。
[10] 分子経路
シグナル伝達系、遺伝子の制御関係、代謝経路、タンパク質間相互作用などの情報を基にグループ化された遺伝子やタンパク質の集合のこと。
変形性関節症のゲノム解析のための国際コンソーシアム。ドイツのEleftheria Zeggini博士を中心に、2017年に発足した。主に北?西ヨーロッパの研究機関の研究者で構成されている。アジアからは理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームが2018年に初めて参加した。GOはGenetics of Osteoarthritisの略。
[2] ゲノムワイド関連解析(GWAS)
疾患の感受性遺伝子を見つける方法の一つ。ヒトのゲノム全体を網羅する遺伝子多型([8]参照)を用いて、疾患を持つ群と疾患を持たない群とで遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に検定する方法。検定の結果得られたP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。GWASはGenome-Wide Association Studyの略。
[3] メタ解析
独立して行われた複数の研究の統計解析結果を合算する統計学的手法。
[4] 疾患感受性多型
持っているとその疾患の感受性(発生する確率)を上昇させるゲノムDNAの塩基配列。
[5] 疾患感受性領域(遺伝子座)
疾患の発症に関連している染色体上の領域のこと。
[6] トランスクリプトーム、プロテオーム、エピゲノムプロファイル
トランスクリプトームは、一つのゲノム、または特定の細胞?組織?器官の中で生産される転写産物(転写によって合成されたRNA)全体を指す。プロテオームは、細胞など、生物のある状態において存在するタンパク質の全てのこと。細胞内の全DNAの塩基配列として記録された遺伝情報の総体を指す「ゲノム」に対し、DNAやヒストンの化学修飾などによって細胞の個性を記憶する情報の総体を「エピゲノム」と呼び、そのプロファイルをエピゲノムプロファイルという。
[7] コホート
研究の対象とする、患者または健常者などの集団のこと。
[8] 遺伝子多型
ヒトゲノムは30億塩基対のDNAから成るが、個々人を比較するとそのうちの0.1%の塩基配列に違いがある。これを遺伝子多型という。遺伝子多型のうち一つの塩基が、ほかの塩基に変わるものを一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)と呼ぶ。
[9] スコア
ある遺伝子と変形性関節症の間で何かしらの関連があるかを、遺伝学的データ(実験結果より統計的に関係ありと思われる、あるいは既知の結果より統計的に関係ありと思われるデータ)に基づき24項目で検討。今回、8,785の遺伝子において各項目に関連ありとなった場合には1点を付与し、合計24点満点で評価した。これまでの研究で変形性関節症について「エフェクター遺伝子」とされている遺伝子についても同様に検討し、エフェクター遺伝子として考慮して良いものとする閾値(しきいち)を3点に設定した。
[10] 分子経路
シグナル伝達系、遺伝子の制御関係、代謝経路、タンパク質間相互作用などの情報を基にグループ化された遺伝子やタンパク質の集合のこと。